相続税は、相続発生から10カ月以内に納税しなければなりません。
ですが、土地の評価は個別性が高く、評価方法によって評価額に幅が生じやすいものです。
なので、急ぎ過ぎて正しい土地の評価ができていないと損してしまうこともあります。
だからこそ、評価に時間がかかってしまいます。
そして、そうこうしているうちに相続発生から10ヵ月はすぐに訪れてしまう。
ある種投げやりな気持ちで、相続税を納めてしまう人も少なくありません。
そんな人にこそ陥りがちなのが相続税の納め過ぎなんです。
「え?!わたしも相続税を納め過ぎているかも・・・!」
相続税の納め過ぎにあとで気づいても、あきらめなくて大丈夫!
5年以内であれば還付を受けることができるんです。
そこで知っておいてほしいのが「相続税の更正の請求」。
相続税の更正の請求について知れば、払い過ぎた土地の相続税もキャッシュバックできます。
それでは、まいります。
2億円以上払った相続税のうち1億円が戻ってきた!
東京近郊で代々続く地主のEさんは、ビルや賃貸マンションのほか、駐車場など土地を多数所有しています。
3年前に父親が亡くなったときは、顧問税理士に頼んで申告と納税をすませ、2億円以上の相続税を支払いました。
「まあ、仕方ないかとその時は思ったんですが、その後、ほぼ同じような資産規模の知人から、相続にあたって資産税に強い税理士に頼んだらずいぶん税金が少なくてすんだという話を聞き、うちの場合はどうだったのか気になりだしたんです」
そこでEさんは、相続に詳しい専門家に相談。
「更正の請求」という方法で支払った税金の一部が戻ってくるということを聞き、さっそく頼んでみました。
その結果、なんと1億円がキャッシュバックされたのです。
なお、Eさんは顧問税理士にその後も個人や資産会社の経理を頼んでいます。
別の税理士に頼んで「更正の請求」を行ったことについて、Eさんのほうから顧問税理士には何も言っていないそうです。
実際、言う必要もありません。
相続税の払い過ぎはこんなにある
相続税の申告・納税をすませた後で、税額が増えるケースもあれば、減るケースもあります。
増えるケースというのは主に、税務署の調査によって申告額が少なすぎるという指摘を受け、「修正申告」するものです。
減るケースとは、申告した相続人のほうで納め過ぎに気づき、「更正の請求」という手続きを行って払い戻しを受けるケースです。
修正申告も更正の請求も、相続が発生した年にすぐ行われるよりは、何年か後になって行われるケースのほうがずっと多くなっています。
ちなみに、2014年に行われた相続税の申告は、過生分も含めて相続人の数では17万人といわれています。
このうち、更正の請求等によって相納税が戻ったケースは1万552人。
減額された税額は合計391億円、一人当たり約370万円になります。
こう聞くと相続税の申告全体の1割にすぎず、金額も少ないように感じるかもしれません。
しかし、実際には相続手続きがなんとか終わると「やれやれ」と安堵し、また税理士に頼んだのだから大丈夫だろうという思い込みもあり、納め過ぎがあったかチェックしていない人がほとんどでしょう。
また、これはあくまで平均であり、500㎡以上の広い土地が多い地主や都市農家のみなさんなら、Eさんのように1億円ほど戻るケースもまれではないと思います。
相続発生からたった10カ月で申告納税が必要
相続税の払い過ぎが発生するには、いくつか理由があります。
まず、相続税の申告は、相続が開始した日(正確には相続開始があったことを知った日)の翌日から10カ月以内に、被相続人が住んでいた地域を管轄する税務署にしなければなりません。
しかし、相続の開始から10カ月なんてあっという間です。
親や配偶者が亡くなってすぐは、お通夜や葬式、初七日や四十九日などが続きますし、その後も遺品の整理や遺産分割の話し合いなどがあります。
そんな中で、亡くなった人(被相続人)のすべての財産と債務について調査し、評価した上で税額を計算し、申告しなければなりません。
自分の財産や借金なら、すぐ分かるでしょう。
しかし、亡くなった親の財産や債務となると、子どもであっても事前に把握していることはそう多くはないでしょう。
経験した方なら分るでしょうが、週末などの空いた時間を使って貴重品の保管場所を探したり、通帳や保険証を調べたり、固定資産税の納税通知書でどこにどんな土地、建物があるのか把握したり、とても手間と時間がかかります。
しかも、税務署は基本的に、評価額を過大に見積もったり、特例の適用を見逃したりしていても、教えてくれるわけではありません。
逆に、申告していない相続財産があるのではないかとか、土地の評価額が低すぎるのでないかといったときは、税務調査にやってきて、不足分があれば追徴課税をします。
相続手続きのスケジュール
相続が発生すると、相続税の申告納税以外にもいろいろ法律や税金に関する手続きがあります。
例えば、被相続人が亡くなると、7日以内に役所に「死亡届」を出さなければなりません。
これと並行して、すぐ行う必要があるのが、「遺言書」の確認です。
法的に有効な遺言書があるかどうかで、相続の内容や手続きが変わってきます。
遺言書には大きく分けて、被相続人が自分で書いた「自筆証書遺言」と、公証役場で作成した「公正証書遺言」、両者の中間的な「秘密証書遺言」があります。
自筆証書遺言の場合、家庭裁判所で開封し、検認という手続きを取らなければなりません。
そして、書き方などが一定の条件を満たしていないと法的に無効となります。
公正証書遺言については、最寄りの公証役場で「遺言検索」によって遺言が存在するかどうか調べてもらいます。
次に、「相続放棄」または「限定承認」は、相続開始から3カ月以内に家庭裁判所に申し立て(申述)を行わなければなりません。
相続財産には、預貯金や土地家屋、株式などの有価証券、骨董書画など財産的な価値のあるもののほか、マイナスの財産として借金やローン、連帯保証人としての債務などもあります。
「相続放棄」とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないというもので、相続人がそれぞれ個別に手続きを行います。
「限定承認」はこれに対し、プラスの財産の範囲でのみマイナスの財産も相続するというもので、相続財産は差し引きゼロになります。
これは法定相続人全員が一緒に手続きしなければなりません。
もし、何もせずに相続開始から3カ月がすぎると、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する「単純承認」とみなされることになります。
相続開始から4カ月以内には、「準確定申告」を行います。
これは、亡くなった年の被相続人の所得について、亡くなった日までの分について相続人が確定申告するものです。
そして、相続開始から10ヵ月以内には、相続財産が相続税の基礎控除を超える場合、相続税の申告・納税を行います。
課税対象となる。相続財産の多くが土地
もうひとつ、相続税で払い過ぎが発生する大きな理由が、相続税の課税対象となる財産における、土地の割合の高さです。
2014年の国税庁のデータでは土地が41.5%、家屋・構築物が5.4%で、合わせるとほぼ半分を占めます。
相続する財産にはいろいろなものがあります。
現金や預貯金をはじめ、株式、債券、土地や建物、さらには美術品やゴルフ会員権など、市場で値段がつくものは基本的にすべて相続税の対象となります。
日本では、個人が保有する財産のうち、預貯金や株式などの金融資産は2016年末時点で1700兆円を超え、そこから債務を差し引いた純資産額でも1300兆円を超えます。
しかし、相続税がかかる財産をみると、土地の割合が高く、相続税がかかる財産の5割前後はずっと土地が占めてきました。
日本では戦後、1990年代はじめのバブル崩壊まで、ほぼ一貫して土地の価格(地価)は上がり続けました。
その後、地価は大きく下がりましたが、いまだに個人の資産においては土地が大きな割合を占めるのです。
同じような土地でも評価は100人100通り
そして、このように相続財産の半分近くを占める土地には、評価が難しいという特徴があります。
相続税における資産の評価について、相続税法では次のように定めています。
- 相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による。
(相続税法第2条)
相続税の税額を計算するベースになるのは、「時価」だということです。
では「時価」とは何でしょうか。
国税庁では、相続財産の評価にあたり、「時価」について次のように定めています。
- 財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(省略)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。
(財産評価基本通達)
何をいっているのか分かりにくいお役所文書ですが、いっていることは2つです。
まず、時価とは「不特定多数の人が自由に取引をした場合に成立する価格」ということであり、「市場価格」と言い換えられます。
例えば、上場株式は証券取引所でほぼ毎日、取引が行われていて、そこで取引されている価格が時価となります。
誰でも新聞やインターネットで確認することができます。
ところが、土地の取引価格は通常、公表されていません。
ネットなどに掲載されている広告の価格はあくまで売主の希望価格であって、実際に売れた価格ではありません。
そして、同じような立地、広さの土地であっても、交渉によって変わることがあります。
つまり、土地というのはそもそも「時価」が分かりにくく、その金額には幅があるのです。
極端な話、同じ土地でもその評価は100人100通りといってもいいでしょう。
そこで、2つめの「この通達の定めによって評価した価額による」としている部分が重要になります。
「公平性」のために設けられたさまざまな評価ルール
税金には課税の3原則というものがあり、特に国民が税負担に対して不公平感を抱かないようにする「公平性」がとても重視されます(ほかの2つは「中立性」と「簡素性」)。
「公平性」という点からは、土地の評価が100人100通りでは困ってしまいます。
そこで国税庁では、土地の評価についてさまざまなルールを設けています。
「この通達の定め」がそれにあたります。
これが素人には分かりにくく、実は税理士にとってもそう簡単ではありません。
こうした評価ルールをよく理解し、自分が相続した土地について適切にあてはめることがとても大切なのです。
ただし、よくあるケースについては通達によってルール化されていますが、土地の条件は千差万別であり、ルールに当てはまらないケースもあります。
そういう場合、あるいはルールをそのまま適用するのは疑問がある場合には、相続税を支払う人(相続人)が「自分としてはこれが時価だと思う」という金額で計算してもよいことになっています。
もちろん、税務署が「はい、そうですか」とそのまま認めてくれるかどうかは分かりません。
しかし、きちんとした根拠を示して、交渉することはできます。
納め過ぎた税金を取り戻す「更正の請求」
相続税の申告と納税をすませると「やれやれ」と安心してしまう人が少なくありません。
しかし、税務署に申告書を提出した後で、納めた税額が多すぎることに気づいたら、申告期限から5年以内に限り、取り戻すことができます。
この手続きを「更正の請求」と言います。
相続税の申告期限は、相続開始から10カ月ですから、「更正の請求」ができるのは、相続の開始を起点とすれば5年10カ月以内ということになります。
「更正の請求」をする際には「更正の請求書」のほか、更正の請求の理由となる「事実を証明する書類」が必要です。
「事実を証明する書類」とは、たとえば土地の評価についての考え方やそれを基礎づける資料などです。
税務署では「更正の請求」を受け付けると、数カ月かけて検討します。
そして、納税者の主張が認められれば、「更正通知書」が送られてきて、還付金が指定の口座に振り込まれます。
これが相続税のキャッシュバックです。
「更正の請求」について知っておきたいポイント
「更正の請求」を行うにあたって、知っておきたいポイントをあげておきましょう。
相続人一人でもできる
相続税の申告は相続人がそれぞれ個別に行います。
ただ、相続財産をどのように分けるかについては、有効な遺言書があれば別ですが、通常は相続人全員の合意が前提となります。
誰がどの財産を相続するか合意ができないと、各人の税額も確定しません。
一方、「更正の請求」については、全員の合意は必要ありません。
相続の際にもめ、親族の付き合いをやめてしまったようなケースでも、相続人のうち一人だけで請求することができます。
なお、そういう場合でも、「更正の請求」が認められると、請求した相続人だけでなくほかの相続人が納めた相続税も減額されることになります。
相続後、売却した土地についてもできる
相続税は、亡くなった人(被相続人)が所有していた財産にかかります。
相続した後で土地を売却したり、賃貸に出したり、分筆したりしていても構いません。
相続の開始時点において土地の評価額がいくらになるかが問題です。
その時点での評価について「更正の請求」を行い、それが認められれば相続税は戻ります。
修正申告したあとでもできる
税務調査の結果、納めた税額が少ないとなったら行う手続きが「修正申告」です。
「修正申告」したらその内容で確定し、原則として後から再調査や審査の請求はできないとされています。
しかし、「更正の請求」は別の手続きであり、納め過ぎた分を取り戻すためにあります。
税務調査が入って修正申告をしていても、土地の評価について間違いがあれば「更正の請求」を行い、相続税を取り戻すことができます。
更正の請求と税務調査は関係ない
相続税について税務調査が入るケースは所得税や法人税より多く、全体の3割前後にのぼります。
また、タイミングとしては申告から3年以内が多いようです。
しかし、相続税の税務調査の対象は主に、預貯金や株式などの金融資産です。
金融資産で何か問題があれば別ですが、土地の評価をめぐっての「更正の請求」であればそれをきっかけに税務調査が入るということはあまりないと思われます。
自社株評価の間違いによるケースもある
ここでは主に、土地の評価を間違えたことによる「更正の請求」を前提にお話ししてきましたが、地主や都市農家のみなさんの中には、同族会社(ファミリーカンパニー)の株式「自社株」の評価を間違えているケースも見られます。
まとめ
いかがでしたか?
ここでは、以下の内容を解説しました。
- 500㎡以上の大きな土地については、「相続税の払い過ぎ」の可能性を念頭に置いておく。
- すでに相続税を払った場合でも、5年以内なら「更正の請求」によるキャッシュバックのチャンスあり。土地の評価が適切だったか検討の余地がある。
今回の記事の内容を把握したうえで、ぜひ税理士と相続税の更正の請求について話し合ってみてください。
この記事は、少しでもあなたのお役に立てれば嬉しいです。